前回、前々回は2022年度に行われたポリフェノール学会に関係する内容を紹介しました。前回はポリメトキシフラボノイド: polymethoxylated flavonoidsについての最新情報をお伝えしました。少し難しい内容ですが、最新でかつ科学的にも面白い内容だと感じたので紹介いたしました。今回もポリフェノール学会から一演題をピックアップした記事です。今回は少し私たちの生活に馴染みのあるような内容を紹介したいと思います。
「カテキンと牛乳を一緒に飲むとカテキンの吸収量が減る」って、ウソ?ホント?
(質問に対するアンサーについてはアカシアの樹公式ツイッターにてアンケート形式で投票できます。コチラから。)
ウソ(信頼性★★☆☆☆):2022年度のポリフェノール学会では抹茶を牛乳と同時摂取した際のカテキンとテアニンの体内動態への影響という演題があり、牛乳との同時摂取によるカテキンの体内動態へはほとんど影響しないと考察していました。
目次
1. お茶ポリフェノールと牛乳に含まれる成分、カゼインの関係
以前にお茶には悪玉コレステロール「LDL」を低下させるという研究報告があるということなど、お茶やお茶のポリフェノール成分であるカテキンの健康効果、お茶と風邪薬、鉄剤の飲み合わせに関する記事を書きました(「お茶を飲むとHDL-コレステロールを低下させる」って、ウソ?ホント?「お茶で風邪薬を飲まない方がいい」って、ウソ?ホント?)
今回はお茶やお茶に含まれる成分をしっかり摂取するには一緒にとってはいけないものがある??という内容について答えていきたいと思います。
ポリフェノール学会で発表があったのは、お茶と乳製品の飲み合わせに関する研究です(1)。
みなさまもお茶と牛乳を一緒に飲むと良くないといった話を耳にしたことがあるかもしれません。一方、最近では抹茶ラテや抹茶ソフトなど乳製品と合わせた食品も多く見かけます。
お茶に含まれるポリフェノール(カテキン類)と牛乳など乳製品に含まれるカゼインの化学的性質により、互いにくっつき易い性質があります。カゼインは牛乳の約8割を占めるタンパク質です。カゼインはその構造から様々な物質とくっつく性質があり、ポリフェノールともくっつきます。
Hasni et al., 2011では紅茶と緑茶に40%の牛乳を混ぜ分画する実験を行っています。この実験の結果からは紅茶、緑茶に含まれる総カテキンのうち約3-7割がカゼインとくっついていまし(2)。
このような化学的な性質によるポリフェノールとカゼインの相互作用についてはこれまでも確認されていました。しかし、牛乳などの乳製品とお茶を同時に摂取した時とお茶のみで摂取した時にポリフェノールの効果に違いがあるのかはあまりわかっていませんでした。
2. 抹茶を牛乳と同時摂取した際のカテキンとテアニンの体内動態への影響
2022年度のポリフェノール学会にはという抹茶を牛乳と同時摂取した際のカテキンとテアニンの体内動態への影響演題がありました。これは株式会社伊藤園中央研究所の常深らの行った研究です(1)。
この研究では20未満の健康な日本人男性を対象に抹茶2gを水150gで摂取した群を対照に、抹茶2gと水20gと牛乳130gを摂取した時を比較しています。
摂取前、摂取後について血液、尿を採取してカテキン、テアニンの量を比較しました。その結果カテキン、テアニンの体内動態への影響はほとんどなく抹茶を牛乳と同時摂取してもカテキンとテアニンの体内動態へはほとんど影響しないと考察していました。
一方でネットなどの健康情報には紅茶にミルクを加えるとポリフェノールの働きが抑制されるという記事も目にします。この情報はAddition of milk prevents vascular protective effects of teaという論文を基にしているようです(3)。マスコミなどにも取り上げられたことからこの情報が広まったと考えられます。
この論文では50歳以上の健康な女性16人を対象に、紅茶のストレートティーを飲んだ時とミルクティーを飲んだ時の血管の広がりを調査しています。
調査の結果は「ミルクティーよりもストレートティーを飲んだときの方が血管の広がりが大きかった」と報告していま(3)。
3. 2つの研究の違いのポイントを整理
ポリフェノール学会(常深ら2022)での発表とLorenz M et al., 2007での研究では結論が異なるように思われます。この2つの研究は同じ研究ではありません。そのため実験の結論が異なることはよくあります。
2つの論文にはいくつか異なるポイントがあります。整理してみましょう。
・対象としたお茶の違い(紅茶と抹茶)
二つの論文では対象としたお茶の種類が違います。お茶の種類については以前の記事でも紹介しました。紅茶と抹茶では扱う茶葉は同じですが、作る過程が異なるため含まれるポリフェノール成分が少し異なります。抹茶や緑茶は主としてカテキン類が含まれます。一方、紅茶には主としてテアフラビンが含まれます。
テアフラビンは赤い色を持ちます。紅茶が緑茶や抹茶に比べて紅(あか)いのはテアフラビンが多く含まれるためです。
ポリフェノールの違いによるカゼインとの親和性(くっつき易さ)に差異があることは以前から分かっており、今回の試験の結果にも影響した可能性があります。
・実験の評価による違い(体内動態か体に与える影響か)
ポリフェノール学会(常深ら2022)での発表では血液や尿中にポリフェノールがあるかどうかが研究の焦点になっています。ポリフェノールのもつ効果までの影響までの評価はしていません。一方、Lorenz M et al., 2007ではというポリフェノールが関係する、であろう効果に対する変化に焦点を当てています。こちらの試験では実際の体内でのポリフェノールの動態については調査しておりません。つまり体内動態には変化がないが間接的な影響によりに違いがでたというか可能性もあります。
4. 結局お茶と乳製品は一緒にとって良いの?
さて、ここまで読んでいただくと、結局お茶と乳製品は摂取してもいいのか分からないよという疑問がわいてきそうですね。
まず、大前提として今回紹介したどちらの試験においても対象とした人や人数が限定的であり、今回の結果で結論づけるのは難しいと思われます。Addition of milk prevents vascular protective effects of teaの論文に対する専門家のコメントが公表されており単一の実験室での研究からライフスタイルのアドバイスを導き出すのは危険である。とあります。(4)今後、もう少し大規模な介入試験などが行われればはっきりとしたことが分かるかもしれません。
ただ、今回お茶と乳製品のことを調べてみての個人的な考察としては、紅茶などのお茶にミルクなどの乳製品をいれて飲んでもポリフェノールの効果が完全に失われるというものではないと考えられます。もう一点、ポリフェノール–カゼインの相互作用は胃や腸など体内でも維持されているのかが疑問です。またLorenz M et al., 2007の論文以外にミルクの影響を論じた論文が現時点で少ないことからこのように考察しました。
5. まとめ
2022年度のポリフェノール学会では抹茶を牛乳と同時摂取した際のカテキンとテアニンの体内動態への影響という演題があり、牛乳との同時摂取によるカテキンとテアニンの体内動態へはほとんど影響しないと考察していました。一方で紅茶にミルクを入れるとポリフェノールの効果が弱まるとの報告もありますが、あまり気にすることはないと思います。少し曖昧な回答となってしまいましたので信頼度の★は2つとしました。
- 常深秀人、荒木義晴、麻生賢太、小林誠、瀧原孝宣、衣笠仁 抹茶を牛乳と同時摂取した際のカテキンとテアニンの体内動態への影響 日本ポリフェノール学会 第15回学術集会 プログラム抄録集 p32
- Bourassa P, Côté R, Hutchandani S, Samson G, Tajmir-Riahi HA. The effect of milk alpha-casein on the antioxidant activity of tea polyphenols. J Photochem Photobiol B. 2013 Nov 5;128:43-9.
- Lorenz M, Jochmann N, von Krosigk A, Martus P, Baumann G, Stangl K, Stangl V. Addition of milk prevents vascular protective effects of tea. Eur Heart J. 2007 Jan;28(2):219-23.
- von Elm E, Antes G. Tea without milk: lifestyle advice based on a small lab study. Eur Heart J. 2007 Jun;28(11):1398