アカシアの樹Q&Aシリーズ~健康に関する「ウワサの真相」~
第17回 ポリフェノールと腸内環境に関するウワサの真相
11月26日はポリフェノールの日毎日の食生活にポリフェノール成分を活かしていただきたいという考えから日本ポリフェノール学会は11月26日をポリフェノールの日として制定しています。日付は「いい(11)ポリフェ(2)ノール(6)」とよむゴロ合わせから11 月 26 日だそうです。この日は日本記念日協会により認定、登録されています。
昨年のポリフェノールの日にも記事を書きました。あわせて読んでみて下さい
ポリフェノールの名前はポリ(複数の)フェノール(ベンゼン環にOH基がついた)成分という意味に由来しています。ポリフェノールとは単一の成分の名称ではなく複数の成分の総称です。そのため、ひと言でポリフェノールといっても自然界には5-8000種類のポリフェノールがあるといわれています。お茶に含まれるカテキン類、コーヒーに含まれるクロロゲン酸、ワインに含まれるアントシアニン、大豆のイソフラボン、タマネギのケルセチンそしてアカシアの樹皮に含まれるプロアントシアニジン、これらすべてがポリフェノールの仲間です。
目次
ポリフェノールは腸内細菌や腸内環境を変化させるって、ウソ?ホント?
(質問に対するアンサーについてはアカシアの樹公式ツイッターにてアンケート形式で投票できます。コチラから。)
→ホント(信頼性★★★☆☆): 最近の腸内細菌に関する研究にはポリフェノールが腸内環境に影響するといういくつかの報告があります。2023年度のポリフェノール学会でもフラボノイド成分が腸内環境に及ぼす影響という発表がありました。
1.フラボノイド成分が腸内環境に及ぼす影響
今回は株式会社メタジェン様が発表されていた腸内細菌とポリフェノールの研究についてです。株式会社メタジェンは腸内環境に関する研究開発支援やヘルスケア事業を行っている会社です。
1‐1. MGscreeningというハイスループット評価法をもちいて解析
この研究は株式会社メタジェンが開発されたMGscreeningという方法使った研究です。(MGscreeningについて)これは複雑な素材や成分の中から腸内細菌に有用な物質を簡単に検査できる方法です。今回の発表では健常な成人男女から摂取した糞便に対してケルセチン、ルチノース、ルチン、ユビオケルセチンなど6種のポリフェノールをあたえてその影響を実験をしていま(1)。
1‐2.水溶性の高いユビオケルセチンはBlautia属の増加する傾向にある
今回の研究では6名の健常な成人男女から摂取した糞便を培地に添加しケルセチン、ルチノース、ルチン、ユビオケルセチンなど6種のフラボノイドをあたえて培養しています。フラボノイドとはさまざまな植物に含まれるポリフェノールの一種です。
実験は培養後、遺伝子解析による菌叢解析、代謝物の解析を行っています。その結果、水溶性の高いユビオケルセチン添加時にBlautia属の増加がありました。この菌は肥満抑制効果や抗炎症効果の可能性があることが知られています。
Blautia属の菌の解説はこちら(ブラウティア コッコイデス | 菌の図鑑 | ヤクルト中央研究所 (yakult.co.jp) )
2.ポリフェノールと腸内細菌に関するヒト臨床試験
今回のポリフェノール学会の発表以外にも、すでに論文として発表されている腸内細菌とポリフェノールの研究にはいくつか報告があります。
2‐1. ポリフェノールの代謝産物のひとつウロリチンAは血管内皮機能が改善する
西本ら(2023)ではザクロなどに含まれるエラグ酸が代謝され作り出されるウロリチンAには血管内皮機能が改善される傾向があることを報告しています(2)。
ザクロなどに含まれるエラグ酸は様々な健康効果があるとことが知られています。しかしこの健康効果は、エラグ酸が代謝できるかどうかという個々人の腸内細菌の差異によって違いがあることが予想されていました。
西本ら(2023)の研究では血管内皮機能が比較的悪く、かつエラグ酸からウロリチンAへの代謝能が低い日本人の成人36名に、12週間にわたってウロリチンA(エラグ酸からの代謝産物)、あるいはウロリチンAを含まないプラセボを摂取してもらい実験を行いました。
その結果、ウロリチンAを 1日10 mg摂取した群においては血管内皮機能が改善される傾向にありました。
また、腸内環境の解析を行ったところ血管内皮機能が改善した被験者においてはFirmicutes(腸内細菌の一つの属)が増加するなどの傾向がありました。
これはエラグ酸を代謝できない人もウロリチンAを摂取することでエラグ酸を代謝できる人の腸内環境に近づく可能性を示唆しています。
このように、ウロリチンAを摂取することでエラグ酸からウロリチンを産生する腸内細菌が増加することが期待されます。その結果さらにウロリチンが増加し、血管内皮機能が改善するというような正のフィードバックが起きている可能性があると考えられます。
3.まとめ
最近は腸活という言葉をよく耳にするようになり、一般の方も含め多くの方が着目している分野かと思います。今回紹介したようにポリフェノールという成分は腸内環境とも深い関わりがありそうです。どのポリフェノールがどの菌に影響し、どんな健康効果をもたらすかは未だわからない点も多くあります。今後の研究が期待されますね。
1. 中畔稜平 フラボノイド成分が腸内環境に及ぶす影響 日本ポリフェノール学会 第16回学術集会 プログラム抄録集 p12