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ポリフェノールと苦味に関する研究があるって、ウソ?ホント?
→ホント(信頼性★★★★☆): 2023年度のポリフェノール学会ではポリフェノールと苦味受容体の相互作用に関する研究が報告されていました。
第18回 ポリフェノールと苦味に関するウワサの真相
ポリフェノールはなぜ健康に良いのか?
1. 体に吸収されないのに健康に良い!?
以前からポリフェノールをめぐっては、体内で吸収されるのか?という疑問点が研究者の間でもあります。実は、ポリフェノールの体内への吸収率はあまりよくありません。しかし、ポリフェノールが人の体に様々な良い影響があることが分かっています。この体にはあまり吸収されないのに体には良いという矛盾を「ポリフェノール・パラドックス」と呼ぶ人もいます。
2.ポリフェノールの苦味が健康に与える影響
体内でポリフェノールがどのように働くかというメカニズムの詳細は解明されていない部分も多く、特に何が最初のスイッチになっているのかについては現在も研究が盛んな分野でもあります。
今回は2023年度のポリフェノール学会の演題から芝浦工業大学らの研究発表を簡単に紹介します。このグループの研究ではポリフェノールが苦味を感じるセンサーと結合することがスイッチとなり糖代謝の改善などの効果につながるという可能性について研究しています。(1)
3. 人が苦味を感じる苦味受容体
人の味覚(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の基本五味)は、味蕾(みらい)と呼ばれる細胞の集合体によって感知されます。味蕾は、主に舌に存在します。それぞれの味には異なる受容体があります。ちょうど、鍵と鍵穴のような関係で苦味にはそれを感知する受容体があります。
近年この苦味の研究について大きな進展がありました。それはの論文で苦味受容体の構造が明らかになったのです。(2)
4. 舌以外にも存在する苦味受容体
苦味受容体はいくつかの種類があり、ヒトでは26種類の遺伝子があることが報告されています。実は舌以外にも腸管などで発現していることが分かっています。しかし、腸管などで発現している苦味受容体がどのような機能をしているかはわかっていません。(3)
5. 計算科学を用いた研究が明らかにしたポリフェノールと苦味の関係
芝浦工業大学の研究チームはタンパク質の立体構造の明らかとなった苦味受容体に着目し、計算科学を用いたコンピューターによる予測により苦味受容体とポリフェノールの相互作用について検証しました。この手法を用いることでより迅速にかつ網羅的に相互作用の検証を実施しました。その結果、お茶に含まれるポリフェノールの一種であるEGCGは苦味受容体と相互作用することで、受容体を活性化する可能性があることが示されたと報告しています。(1)お茶のポリフェノール成分についてはこちらを読んでみて下さい
今後、実際にポリフェノールとタンパク質の相互作用があるか、苦味受容体のノックアウトによるポリフェノールの効果がどうなるかなど更なる解析が進むことで、ポリフェノールの健康効果の最初のスイッチが明確になっていくのではないかと思います。
1. 清水崇史、伏見太希、藤井靖之、須原義智、越坂部奈緒美 計算化学を用いた苦味受容体とポリフェノールの相互作用の検証 日本ポリフェノール学会 第16回学術集会 プログラム抄録集 p29