アカシアの樹Q&Aシリーズ~健康に関する「ウワサの真相」~
第12回 アルコールや飲酒と健康に関するウワサの真相
大勢でワイワイ飲むお酒、一人でゆっくりのむお酒。おいしいお酒にはいろいろな楽しみ方がありますよね。お酒は私たちに豊かな時間を提供してくれます。一方で、健康に対するイメージはどうでしょうか?酒は百薬の長という言葉があるようにアルコールはカラダに良い。体調不良を改善する、体調を良くする効果がお酒にはあると信じている人も多いのではないでしょうか?一方で、お酒なので健康に良いというのは嘘だという意見もありそうです。
今回からはお酒の健康効果、次回以降はワインの健康効果について研究結果や論文をもとに考察してみたいと思います。
目次
少しの飲酒は健康に良い効果があるってウソホント?
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→ウソ(信頼性★★★★☆):最新の研究、データ解析では少量の飲酒でも体に良いとは言えないという見解です。もちろん体に良い影響もあるのですが、相対的にみてデメリットの方が大きいという考察がされています。
1. 健康に良い?悪い?お酒の健康に対するイメージ
少し昔の調査にはなりますが、独立行政法人 酒類総合研究所はアンケートによるお酒に対する意識調査を行っています(1)。この消費者の健康に関する意識と酒類消費との関係調査ではお酒と健康について回答する項目があり、その中で健康に対するお酒のイメージはお酒の種類によって大きく異なることが示されています(1)。みなさまの考えるお酒と健康に関するイメージも様々では人によって様々ではないでしょうか?
2. お酒とはアルコール分を含み「酔う」飲みもの
いうまでもなくお酒はアルコール分を含む飲みです。アルコール分を含むお酒には良い面と悪い面が共存します。どんな栄養素、食べ物でも過剰に摂りすぎるとデメリットがでてきます。
アルコール類については過剰に摂りすぎた時の悪影響が大きくでるので気を付ける必要があります。
2-1. アルコールとは何か
厚生労働省のウエブページ(e-ヘルスネット)ではアルコールとは次のように定義しています(2)。
酒の主成分の1つであり、「酔い」などの効果をもたらす。広義には酒そのものを指す。日本の酒税法上は1%以上のアルコールを含有する飲料を酒類としています。
2-2. アルコール代謝と酔うメカニズム
ではなぜヒトはアルコールによって酔うのか。簡単にアルコールの代謝(分解、吸収)と酔いのメカニズムについて解説します。
お酒から摂取したアルコールは胃・小腸から吸収され、肝臓で代謝されます。肝臓で、アルコールはアセトアルデヒドという物質を経て酢酸に分解されます。
代謝の途中、アルコール分解の中間物質にアセトアルデヒドという物質ができます。このアセトアルデヒドが顔を紅潮させる、吐き気をもよおす原因物質です。さらに肝臓での分解が進み酢酸にまで分解されます。その後、筋肉・脂肪組織などで最終的には水と二酸化炭素に分解されます。一方、摂取されたアルコールの2-10%は、そのまま血液中を循環します。肺から呼気、腎臓から尿、皮膚から汗としてめぐり体外に排泄されます。血液中のアルコールが脳に到達すると、神経細胞にはたらきかけます。そして知覚機能、運動機能、精神機能などを鈍くさせる作用を引き起こします。これらが「お酒に酔う」という状態です。つまり酔うという状態は血中に入るアルコール分と肝臓の分解途中でできるアセトアルデヒドによって作られているのです。ちなみに、血液中のアルコールが脳に到達すると、神経細胞にはたらきかけます。と書きましたがここの詳しいメカニズムはよくわかっていない部分が多いそうです。
アルコールの代謝吸収についてはアサヒビール、サッポロビール、キリンビール などでのビール会社さまでも分かりやすく解説されています。参考にしてみてください。
アルコール代謝のしくみ|人とお酒のイイ関係|アサヒビール (asahibeer.co.jp)
アルコール代謝の仕組み|酔いの仕組みとアルコール代謝|サッポロホールディングス (sapporoholdings.jp)
キリンビール大学|ビール・発泡酒・新ジャンル|お酒|キリン (kirin.co.jp)
3. 現代の日本が設定しているアルコールの摂取目安量
厚生労働省が発表している「健康日本21」によると、アルコール類の1日あたりの適量は、男性で20 g以下、女性で10 g以下とされています。この量に換算すると、ワインであれば、男性で150 ml以下、女性で75 ml以下が適切な摂取量となります(3)。
お酒の種類 |
ビール(500ml) |
清酒1合(180ml) | ウイスキー(ダブル60 ml) | 焼酎(35度)(1合180 ml) | ワイン(1杯120 ml) |
アルコール度数(%) |
5 |
15 | 43 | 35 | 12 |
アルコール量(g) |
20 |
22 | 20 | 50 | 12 |
この量が安全な国の定める安全なアルコールの量の基準です。しかし、アルコールの影響は体格や遺伝的要因など個人によって大きく異なります。アルコールに弱いという方もいるかと思います。あくまで目安として考えましょう。
4. お酒は身体に良いのか解説
では、お酒、アルコールがカラダに良いのかについて見ていきます。
昔から「酒は百薬の長」といわれることがあります。実はこの言葉の後には続きがあります。「酒は百薬の長されど万病の元」です。
これは日本の随筆「徒然草」に由来する言葉とされてます。「酒は百薬の長」は、お酒は適量ならば、飲酒は健康に良いという意味で使われますが、徒然草では飲み過ぎは健康に悪影響を与えることがあるという意味も指摘しています。昔からお酒を過剰に飲むことは良くない。これは古くから経験測からも明らかだったようです。
4-1. 少量のアルコールでも健には良くない!?最新の見解
お酒の飲みすぎは良くない。では少量のお酒ではどうでしょうか。
最新の研究結果からは少量でもアルコールが体にいいとは言えないという見解です(4, 6 ,7)
このことについては、名医が教える飲酒の科学 一生健康で飲むための必修講義(葉石かおり (著), )の中でもわかりやすく解説されています(4)。
以前の研究では飲酒量と心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクの関係にはお酒によるメリットが得られる領域が存在する(この飲酒量とリスクのグラフがJのような形をとることから「Jカーブ」と呼ばれていました。)とされてきました(5)。つまり、お酒を少し飲む人は全く飲まない人よりも心血管疾患のリスクが低いということが考察されていました(5)。しかし、最新の解析方法、メンデルランダム化という手法を用いた解析からは非飲酒者に比べ心血管疾患のリスクが低くなる飲酒量は存在しないこと、飲酒量が増えるにつれて心血管疾患のリスクは指数関数的に上昇していくことが明らかとなりました(6,7)。
お酒好きには少し残念な結果ですね。しかし、少し違った考察もできるかと思います。
Biddinger KJ et al.(2022)の論文においても単にアルコールの飲酒量で分析するとJカーブの傾向はみられます。確かに少量の飲酒があり、リスク低減が起っている層(図中A)は存在します。ところがここをさらに詳しく解析してみると、Jの下がっているの層の人たちは煙草を吸わない、身体活動が多い、野菜の摂取量が多いなど、とても健康的な生活をしていることが分かりました。つまり、これはアルコール以外の要因でリスクが低減していることを示していたのです。
これがJカーブ説が否定された経緯です。
しかし逆に言えばこのデータは少しの飲酒による悪影響は生活環境を良くすれば簡単に挽回できるとも考えることができます。
4-2. カラダに良いという側面があるのも事実
最新の研究結果からは、飲酒による相対的な心疾患のリスク低減は見いだせないという結果が出ていますが、限定的な作用などに着目するとカラダに良いメリットがあるというのも事実です。
Maxwell S et al. (1994)では、健康な学生10名(男子5名、女子5名、平均年齢22才、平均体重67.3 kg)に体重当たり5.7 mlの赤ワインを飲んでもらい、食後4時間に血清の抗酸化活性を測定する実験を行いました。その結果、赤ワイン摂取直後から抗酸化活性が上昇し始 め、90分後には最大となり、平均で約15%抗酸化活性が有意に上昇しました(8)。
同様の血清中の抗酸作用に関わるデータはWhitehead T et al.(1995)でも確認されています(9)。血清の抗酸化活性の向上には悪玉コレステロールの低下などの効果があると考えられます。このように飲酒によるメリットがあるというのも事実です。
対象はだれか、何を作用物質としているか、また何の効果に着目するかなどの違いからでメリット、デメリットの解釈は変わってきます。
まとめ
今回は少量の飲酒は健康に良い効果があるのかについて解説してみました。
古くからお酒には身体に良い効果と悪い効果を与えることが分かっています。お酒にはアルコール分が含まれます。飲酒やアルコールには健康に良い効果を与える面もあります。
しかし、相対的にはデメリットの方が大きいようです。最新の研究からも飲酒による相対的な心疾患のリスク低減は見いだせないという結果が出ています。
- 鈴木康. (2004). 消費者の健康に関する意識と酒類消費との関係調査. 酒研報, 176, 93.
- 厚生労働省 e-ヘルスネット アルコール
- 厚生労働省 健康21 アルコール
- 葉石かおり.(2022). 名医が教える飲酒の科学: 一生健康で飲むための必修講義. 日経BP.
- Holman, C. D. A. J., English, D. R., Milne, E., & Winter, M. G. (1996). Meta‐analysis of alcohol and all‐cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. Medical Journal of Australia, 164(3), 141-145.
- Griswold, M. G., Fullman, N., Hawley, C., Arian, N., Zimsen, S. R., Tymeson, H. D., … & Farioli, A. (2018). Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. The Lancet, 392(10152), 1015-1035.
- Biddinger, K. J., Emdin, C. A., Haas, M. E., Wang, M., Hindy, G., Ellinor, P. T., … & Aragam, K. G. (2022). Association of habitual alcohol intake with risk of cardiovascular disease. JAMA network open, 5(3), e223849-e223849.
- Maxwell, S., Cruickshank, A., & Thorpe, G. (1994). Red wine and antioxidant activity in serum. Lancet (London, England), 344(8916), 193–194.
- Whitehead, T. P., Robinson, D., Allaway, S., Syms, J., & Hale, A. (1995). Effect of red wine ingestion on the antioxidant capacity of serum. Clinical chemistry, 41(1), 32–35.