目次
食べ方の順番を変えるだけで血糖値の上昇は抑えられるって、ウソ?ホント?
→ホント(信頼性★★★★☆):野菜をご飯などの炭水化物を食べる前に摂取する食事方法が食後血糖値の抑制に効果的であるという研究エビデンスが報告されています。
第19回 ベジファーストの健康効果に関するウワサの真相
1.ベジファーストとは?
1₋1. 野菜(きのこ、海藻類でもOK)を最初に食べる食事方法
ベジファーストとはベジタブルファーストのこと、つまり野菜、キノコ、海藻類(ベジ)を最初に(ファースト)食べる方法のことです。
令和3年度に行った浜松市のアンケート調査ではベジファーストを知っている人は84%、一方実践しているという人は38.5%でした。認知度は84%と高いので多くの方がきいたことはある言葉かと思います。
世代別にみると意外にも子育て世代が「意味を知っていて、実践している」割合が多く、高齢者では「意味を知っているが、実践していない」という割合が多い結果となっていました。浜松市による食の健康づくりについてアンケート
1₋2. ベジファーストの実践で血糖値を上げにくくする効果あり
ベジファーストの実践、つまり野菜をご飯などの炭水化物を食べる前に摂取する食事方法が食後血糖値の抑制に効果的であるという研究エビデンスは多くあります(1₋8)。その中でも今回はImai et al. (2014) J Clin Biochem Nutrの論文を中心に紹介します。
ベジファーストの効果をヒト臨床試験で検証するために野菜を米飯の前に摂取した日と米飯の後に摂取した日の、食後血糖値およびインスリンの変動をクロスオーバー試験により比較しました。
具体的な方法としては、被験者は空腹の状態で試験食(米飯150g と野菜サラダ90g) を1口20 回そしゃくし、15 分かけて摂取し、その後の血糖値を測定しています。その結果、野菜を先に摂取した場合は米飯を先に摂取した場合と比較して、食後の血糖値が20 ~ 30%抑制されたという結果が報告されています(1,3,4,5)。
2.なぜ食べ方の順番を変えるだけで血糖値の上昇は抑えられるのか
2‐1. 野菜などに含まれる食物繊維が糖質の吸収を遅らせる
ベジファーストによる食後血糖値の上昇を抑える効果のメカニズムはいくつか考えられますが、食物繊維が糖質の吸収を遅らせるためと考えられています。
食物繊維は人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のことです。野菜では細胞の外側にある細胞壁に多く食物繊維が存在します。水に溶けやすい食物繊維(水溶性食物繊維)は水にとけゼリー状になることで小腸での糖の吸収の速度をゆるやかにします(5)。
他にもインスリンの分泌をうながすインクレチンホルモンであるGLP-1分泌の促進、インスリン作用の増強、胃内容物の排出遅延などの作用が考えられています(5)。
3. ベジファーストを実践する時の野菜の量はどのくらいか
3-1. サラダ1皿分(約90g)の野菜を最初に食べることで効果が期待できる
今回調べた研究データの中では60-220gの野菜を用いた実験で血糖値の抑制効果がみられていました。一方、古賀(2016)では野菜50gでのベジファーストでは効果ないという研究報告もありました(6)。いくつかの研究の野菜量とその結果から考えて、少なくともサラダ1皿分、約90gの野菜を食べることでベジファーストの効果が期待できる量と考えられます。(厚生労働省の提唱する野菜の摂取量は1日350 gです。1回の食事で野菜90 gだけだと基準値からは少し不足します。)
3-2. 野菜ジュースでもベジファーストの効果はある
ベジファーストを実践する上でその方法は生野菜を食べる事だけには限りません。実は野菜ジュースを食前に飲むことでも効果が得られるというエビデンスがあります(9,10)。食前に野菜ジュースを飲むだけで血糖値上昇が緩やかに!?
野菜ジュースファーストのすすめ
しかし、食物繊維の少ない野菜の絞り汁では効果が弱まるという報告もあります(11)。やはり重要なのは食物繊維の量のようです。
4.野菜を食べた後、何分時間をあけて炭水化物を摂るのが良いか
4-1. 食事開始15分以上できれば30分後に炭水化物をとると良い
ベジファーストで血糖値の上昇を抑える効果を得るには野菜を食べた後、何分後から効果があるのか。疑問に思っている方も多いかもしれません。
先ほど紹介した実験では1口20 回そしゃくし、15 分かけて摂取するという食事方法で、最初に野菜を食べ食後の血糖値が20 ~ 30%抑制されていました(1,3,4,5)。野菜ジュースを用いた実験では同時に野菜ジュースを摂取することでは血糖値の抑制効果は見られず、食前15分-1時間前に飲むことで抑制効果が見られていました(9)。中でも一番効果的な野菜ジュースの飲み方としては食前30分前に飲むという結果でした。食前に野菜ジュースを飲むだけで血糖値上昇が緩やかに!?
さらにImai et al., (2023) Nutientの実験では食事のスピードが速いほどベジファーストの効果が弱いことが示されています(12)。このようにベジファーストを効果的にするにはゆっくりと野菜を食べることが大事です。しかし、野菜サラダだけを15分以上時間をかけて食べることは普通の生活では難しいと思います。そこで、野菜サラダを含むおかずを3分の2くらい食べてご飯を後回しにする。炭水化物の後食べを意識しましょう。
5.さらに効果的に血糖値を抑えるベジファースト法
先の章で食物繊維を最初に摂るベジファーストは15分ほど時間をあける方が良いが、野菜サラダだけを15分以上時間をかけて食べることは難しい。そこで、野菜サラダを含むおかずを3分の2ほど食べてご飯を後回しにする方法を提案しました。
この方法が良いことを裏付ける研究エビデンスがあります。実はベジファーストだけでなく、タンパク質や脂質などを先に食べるタンパク源ファーストでも食後の血糖値の上昇を抑える効果があることが報告されています(13)。これらの研究を総合的に考えると最初に食物繊維の多い野菜を中心に食べ、次に主菜の肉や魚を3分の2ほど食べ、最後にご飯などの炭水化物の順番が最も効率の良い食べ方のようです。今井、梶山(2012)の論文では約半年の野菜の量と食事の順番の指導でHba1cの有意な低下が報告されています(14, 3)。
もし、最後にご飯だけで残して食べにくいようでしたら納豆などと一緒に食べるのがおすすめです。納豆に含まれる大豆イソフラボンはグルコースの取り込みを改善する効果も報告されています(15)
また、ご飯単独で食べるより納豆と一緒に食べることで食後血糖値の上昇を抑える効果も確認されています。(16) 納豆が食後血糖値の上昇を抑制
6.まとめ
今回はべジファースト、野菜をご飯などの炭水化物を食べる前に摂取する食事方法は食後血糖値の抑制に効果的であるという研究を紹介しました。ひと昔前までは「三角食べ」という食べ方が推奨されていましたが、最新の研究結果からはまず野菜を食べ、次に主菜の肉や魚、最後にご飯などの炭水化物という順番が血糖値の上昇を穏やかにするというエビデンスがあります。さらにゆっくり噛んで食べることが大事となります。ベジファーストは今日の食事から簡単に実践できるので意識して食事をたのしみましょう。
- 今井佐恵子, et al. “糖尿病患者における食品の摂取順序による食後血糖上昇抑制効果.” 糖尿病2 (2010): 112-115.
- 金本郁男, et al. “低 glycemic index 食の摂取順序の違いが食後血糖プロファイルに及ぼす影響.” 糖尿病2 (2010): 96-101.
3.今井佐恵子, and 梶山静夫. “食品の摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果.” 糖尿病 55.1 (2012): 1-5.
6.古賀克彦. “食事の摂取順序による血糖値への影響.” 長崎女子短期大学紀要 40 (2016): 70-5.
- Kasuya, Noriaki, et al. “Prior or concomitant drinking of vegetable juice with a meal attenuates postprandial blood glucose elevation in healthy young adults.” Food and Nutrition Sciences 7.9 (2016): 797-806.
- Saito, Yuuki, et al. “Tomato juice preload has a significant impact on postprandial glucose concentration in healthy women: A randomized cross-over trial.” Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition 29.3 (2020): 491-497.
- 野菜サラダを先に食べると急激な血糖値の上昇が抑えられる要因を明らかに | ニュースリリース | キユーピー (kewpie.com)
- Imai, Saeko, et al. “Eating Vegetables First Regardless of Eating Speed Has a Significant Reducing Effect on Postprandial Blood Glucose and Insulin in Young Healthy Women: Randomized Controlled Cross-Over Study.” Nutrients 15.5 (2023): 1174.
- 矢部大介, 桑田仁司, and 清野裕. “4. 食後血糖と栄養素摂取の順番.” 糖尿病59.1 (2016): 30-32.
- 今井佐恵子, et al. “外来患者に対する摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果.” 日本栄養士会雑誌53.12 (2010): 1084-1091.
- Nanri, Akiko, et al. “Soy product and isoflavone intakes are associated with a lower risk of type 2 diabetes in overweight Japanese women.” The Journal of nutrition140.3 (2010): 580-586.
16. 石川篤志, 岸幹也, and 山上圭吾. “納豆, 大豆が健常成人の食後血糖値に与える影響.” 生活衛生 53.4 (2009): 257-260.